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福岡市|令和6年度決算とお金の流れ

福岡市のお金は、
どこから来て、どこへ行くのか

令和6年度、福岡市には1兆1,318億円が入り、1兆1,134億円が出ていった。人口160.8万人。久山町(71.4億円)のおよそ160倍の家計簿を、まったく同じ物差し——総務省の決算カード(普通会計)と同じ色の文法——で図解する。大きい市は、小さい町と何が同じで、何が違うのか。

1. 全体の流れ — どこから入り、どこへ出ていくか

左が収入、右が支出。左の緑=自力で集めたお金、グレー=国・県からのお金や資金の回収、薄いグレー=繰越・取り崩し。右端は歳出の性質:暗い赤=固定費、赤=運営費、グレー=貸して返ってくるお金、緑=自由に使えたお金

令和6年度 福岡市決算のサンキー図(目的別・歳入1兆1318億円/歳出1兆1134億円)

収入の柱は市税3,837億円(34%)。人への課税(市民税1,811億円=47%)と、土地・建物への課税(固定資産税1,447億円+都市計画税305億円=46%)がほぼ半々だ。ここが久山町との違い——久山は土地・建物に大きく傾いた稼ぎ方(町税の64%)、福岡市は人と物のバランス型。緑の帯を足した自力のお金は約4,134億円=収入の37%。

国庫支出金2,205億円(19%)が地方交付税563億円を大きく上回るのも政令市の特徴で、国とは交付税ではなく補助金でつながっている。目立って太い商工費1,849億円の正体は、92%にあたる1,699億円が中小企業向け制度融資の貸付金。年度内に貸して回収する両建てのお金で、収入側の諸収入1,915億円(貸付金の回収)と対になっている(右端のグレー)。

そして右端が、この図の結論だ。固定費は5,570億円=歳出の49%。久山町の31%よりはるかに重い。最大の塊は扶助費(福祉の給付金)3,011億円で、歳出の27%を占める。大都市は福祉の現場そのものであり、人口が多いほど「必ず出ていくお金」の割合が上がる。自由に使えたお金(工事・積立)は1,274億円。繰越を足しても1,458億円=13%(久山町は23%)。

さらに、工事1,013億円の財源を見ると市債(借金)が470億円=46%。市の自前の現金(一般財源)は295億円(29%)だけだ。借金で建てた分がやがて公債費=固定費に変わる「前借り」の構造は、久山町とまったく同じである。

同じ買い物が、170倍高くつく — 規模の経済

1人あたりの歳出は、ほぼ同じ 約69万円 福岡市(160.8万人) 約70万円 久山町(9,386人) どちらも住民1人につき 年70万円ほどで回っている。 でも「頭割り」は割高 議会費(1人あたり・年) 福岡市 約1,100円 久山町 約9,700円 = 9倍 議会は9,000人でも160万人でも、ひとつ要る。 消防費も約2.6倍。固定コストの宿命だ。 同じ7.5億円のハコの「値段」 住民1人あたりの負担 福岡市なら 約470円 久山町では 約8.3万円 = 170倍以上 人口比で福岡市に換算すると、首羅山の7.5億円は 約1,300億円の一点投資にあたる。 規模の経済の正体は、「1人あたりインフラコスト」の差。 だから小さな町の大きな投資には、大きな市より厳しい規律が要る。

総額では160倍違う、ふたつの財布。だが1人あたりの歳出総額は、ほぼ同じだ——久山町 約70万円、福岡市 約69万円。人口9,000人の町も、160万人の市も、住民1人につき年70万円ほど使って回っている。

違うのは中身である。小さい町は「町を維持する固定コスト」の頭割りが高くつく。議会は、人口9,000人でも160万人でも、ひとつ要る。1人あたりの議会費は久山町 約9,700円、福岡市 約1,100円——約9倍。消防費も約2.6倍。同じ種類のインフラを、9,000人で割るか160万人で割るかの違い——つまり1人あたりインフラコストは、人口が少ないほど跳ね上がる。

逆から言えば、大きい市は、同じことをやったときのコストがめちゃくちゃ安い。同じ7.5億円の施設を建てても、福岡市民の負担は1人あたり約470円。久山町民は約8.3万円——同じ買い物が、170倍以上高くつく。規模の経済とは、住民から見れば「1人あたりインフラコスト」の差のことである。

その物差しで見ると、首羅山ガイダンス施設の7.5億円の重さがはっきりする。人口比で福岡市に換算すると、約1,300億円の一点投資に相当する。福岡市がその規模の事業を、収支計画なし・議会資料なしで通すことは、まず考えられない。その「考えられないこと」が起きた経緯を追ったのが、姉妹編・久山町の記事である。小さな町の大きな投資ほど、厳しい規律が要る。

2. 計画はどう作られているか — 第10次福岡市基本計画

3層の計画 + 2つの運営プラン 基本構想 2012年策定・期限なしの都市像 第10次基本計画 2025〜2034年度・8つの分野別目標 政策推進プラン 2025〜28年度・施策ごとのKPI・事業費約6,300億円 財政運営プラン 同じ4年サイクル 行政運営プラン 同じ4年サイクル 毎年、回路が1周する 予算 翌年度の予算編成に反映 実行 各事業の実施 評価 市民意識調査4,500人/全事業の評価 事務事業点検 約1,200事業 報告・公表 審議会・市議会へ

お金の流れの次は、それを方向づける計画を読む。福岡市の総合計画は3層でできている。「基本構想」(2012年・期限のない都市像)、「第10次福岡市基本計画」(2025〜2034年度)、そして4年間の実施計画「政策推進プラン」。さらに「財政運営プラン」「行政運営プラン」を同じ4年サイクルでつくり、計画・お金・組織の3つを同期させている。策定には2年をかけ、職員が高校や大学に出向くワークショップを45回(1,278人参加)、オンラインアンケート8,242件、審議会、パブリックコメントを経て決まった。

では、この計画は何を約束しているのか。芯にあるのは「生活の質の向上と都市の成長の、持続的な好循環」という、たったひとつの戦略だ。かみ砕くとこうなる——住みやすい町には、人と企業が集まる。人と企業が集まれば、経済が育つ。育った経済の果実で、住みやすさをさらに磨く。この輪を回し続ける、という設計図である。8つの分野別目標(子ども・地域・自然共生・都市機能・地域経済・国際性など)は、この輪の部品として配置されている。前提にあるのは「福岡には人が集まり続ける」という自信だ。実際、人口が増え続ける数少ない大都市であり、計画はその強みに全部を賭けている

面白いのは、達成度の測り方だ。第9次までの計画は、刑法犯認知件数のような「客観的な数字」で測っていた。第10次はそれを「市民意識」——『そう思う市民の割合』に置き換えた。たとえば「誰もが尊重されるまちだと思う」63.9%、という具合に、毎年4,500人を調査して推移を公表していく。

これは両刃の剣である。良い面は、行政の都合ではなく暮らしの実感そのものを測ること。統計の上で改善しても市民が実感していなければ、それが結果に出る。危うい面は、実感は景気や報道でも動くこと。「そう思う人が増えた」ことと「実態が良くなった」ことは、同じとは限らない。客観の数字より、測りやすく説明しやすい物差しに替えた——という見方もできる。

お金との接続は具体的だ。政策推進プランには施策ごとの数値目標(KPI)と2028年度の目標値が並び、掲載事業費は約6,300億円、うち優先的にお金を配る「重点事業」が約4,500億円。並走する財政運営プランは「投資の選択と集中」と借金の抑制を掲げ、実際に市債残高はピークだった平成16年度から約7,561億円減っている。計画と財布が、同じ4年で綴じられている。

そして毎年度、目標ごとの市民意識の推移と全事業の評価を外部有識者の審議会と市議会に報告・公表し、翌年度の予算に反映する。別枠の「事務事業点検」では毎年約1,200事業を点検する。回路は、確かに閉じている。ただし、ひとつだけ覚えておきたい。回路が回るのは、測っているものについてだけだ。「何を測るか」という物差しの選択そのものは、回路の外で決まっている。

3. 関所はどこにあるか — 事前ではなく、事後の積層

「関所」は、どこに置かれているか 着工前 建設中 完成後 北九州市 事前評価 内部・外部の検討+パブリックコメント 福岡市 PPP/PFI手法検討 (10億円以上・手法の選択のみ) 再評価(5年経過) 事後評価 + 毎年の事務事業点検 約1,200事業(全期間) 久山町 関所なし——事前も、事後も、毎年の点検もない

では、久山町の記事で書いた「関所」——大きな事業の採算を審査する仕組み——を福岡市は持っているか。調べた答えは、「着工前の関所」はない。代わりに、事後の関所が何層も積んであるだった。

常設の制度は「公共事業再評価等制度」(1999年〜)。国の補助が入った公共事業が、採択から5年たっても着工していないとき、または5年を超えて続いているときに、第三者の監視委員会が「再評価」する。完成すれば「事後評価」もする。着工前に収支を審査する事前評価は、この仕組みには含まれていない。

ただし、10億円以上の施設整備は必ずPPP/PFI(民間活用)の検討を通す。毎年約1,200事業の点検が予算に跳ね返る。計画の達成度は毎年公開される。緩い関所を何層も重ねて規律を保つ型だ。ちなみに「着工前の関所」を持つのは同じ福岡県の北九州市で、公共事業評価に事前評価の仕組みがあり、内部・外部の検討とパブリックコメントを経て方針を公表する。

この物差しを久山町に当てると、答えは短い。事前の関所もない。事後の関所もない。毎年の事業点検もない。計画の達成度を測る住民調査もなければ、7.5億円の施設の収支計画すらない。政令市の仕組みをそのまま求めるのは酷だとしても、北九州市の事前評価のような関所をひとつ——という姉妹編の提案は、隣の市がすでにやっていることの輸入にすぎない。

読み取れる3つのこと

稼ぎ方が逆 47% 福岡市=人への課税 (市民税/市税) 64% 久山町=物への課税 (固定資産税/町税) 人が稼ぐ都市と、 企業の土地・建物が稼ぐ町。 大きいほど不自由 49% 福岡市の固定費比率 31% 久山町の固定費比率 1人あたりの自由なお金は 久山町が約2倍。使い方こそが個性になる。 違いは金額ではなく、回路 福岡市=閉じている 久山町=閉じていない 測って、公表して、翌年の予算に返す——その輪の有無。

稼ぎ方が逆。福岡市は人の稼ぎ(市民税47%)、久山町は企業の土地・建物(固定資産税64%)。どちらも「自力で稼ぐ緑」を持っているが、その源が違う。人口が増えない町で固定資産税モデルを維持するには、企業に選ばれ続けるしかない。

大きいほど不自由、小さいほど割高。固定費比率は福岡市49%・久山町31%で、1人あたりの自由なお金は久山町が約2倍。ただし小さい町は固定コストの頭割りが高く(議会費は9倍)、財布の総額も小さい。強みは「割合」、弱みは「規模」——だからこそ、身の丈に合った使い方こそが町の個性になる。

違いは金額ではなく回路。福岡市は計画→予算→毎年の評価→翌年度の予算、という回路が制度として閉じている。久山町に足りないのは予算額ではなく、この回路——作った計画の達成度を毎年測り、事業を点検し、大きな投資に関所を置く仕組みである。

出典|総務省「令和6年度 市町村決算カード」(普通会計・福岡市)、福岡市「令和6年度決算 財政のあらまし」、福岡市基本構想・第10次福岡市基本計画・政策推進プラン・財政運営プラン・行政運営プラン(いずれも市公式サイト)、福岡市「公共事業再評価等制度」実施要領、北九州市「公共事業評価」、総務省「ふるさと納税に関する現況調査」。金額はすべて決算カード(普通会計)から機械的に集計し、歳入・歳出とも合計の一致を検算済み。1人あたりの数値は住民基本台帳人口(令和7年1月・160.8万人)および久山町の同基準人口による単純な割り算。

→ 姉妹編「久山町のお金は、どこから来て、どこへ行くのか」

→ 連載「2025 ESSAYS」の目次へ