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久山町|令和6年度決算とお金の流れ

久山町のお金は、
どこから来て、どこへ行くのか

令和6年度、久山町には71.4億円が入り、65.8億円が出ていった。帯の太さは金額の大きさ。数字はすべて総務省の決算カードと町の公表資料から取った。まず全体を眺め、次に「自由に使えるお金」がいくらあるかを見て、最後に町がそのお金で何をしてきたか・これから何をするかを見る。

1. 全体の流れ — どこから入り、どこへ出ていくか

左が収入、右が支出。緑は黒字(前年度からの繰越と、翌年度への繰越)。

令和6年度 久山町決算のサンキー図(目的別・歳入71.4億円/歳出65.8億円)

収入の柱は町税24.3億円(34%)。ふるさと納税が7.0億円まで育ち、地方交付税9.8億円に迫る規模になっている。支出側の枝は、町が事業ごとの決算額を公表していないため、当初予算額・入札の落札額で示した。

2. 総務費はなぜ太いか — 中身と、ふるさと納税の実入り

総務費16.4億円は歳出の25%。福岡都市圏の周辺自治体でも新宮町(32.3%)に次いで高い。正体を分解する。

総務費16.4億円の内訳(役場運営62.6%・ふるさと納税経費19.5%・貯金への積立17.9%)

公式の内訳は非公表だが、説明できる塊が2つある。ふるさと納税の経費(推定3.2億円)と、貯金への積立(2.9億円)だ。この2つを剥がした素の役場運営は約10.3億円=歳出比16%で、県内の標準的な水準に収まる。役場が太っているのではなく、ふるさと納税の経費と貯金づくりが総務費の中に沈んでいる。周辺でも総務費比率の高い順は新宮町(寄附37.7億円)、久山町(寄附7.2億円)——ふるさと納税が大きい町ほど総務費が太る。

ふるさと納税受入7.1億円のゆくえ(手取り54.5%・返礼品23.3%・事務17.4%など)

そのふるさと納税は、受入7.1億円に対して経費3.2億円(45.5%)。町の手取りは約3.9億円で、半分は返礼品・サイト手数料・送料に消える。歳入の帯で「寄附金7.2億円」と見える金額のうち、実際に使えるのは半分——同じ億円でも、地方交付税の9.8億円とは中身が違う。

3. 固定費と、自由に使えるお金

同じ71.4億円を「家計簿ふう」に見直すと、町の身動きの幅が見える。

固定費と自由に使えるお金のサンキー図(固定費22.2億・運営費32.8億・自由に使えたお金16.4億)

固定費22.2億円(31%)と毎年の運営費32.8億円(46%)は、ほぼ自動的に出ていく。自由に使えたお金は16.4億円(23%)。その中身は、新しい工事7.9億円・翌年度への繰越5.6億円・貯金2.9億円だった。

4. では、そのお金で何をしてきたか — 28事業の成績表

縦軸は自走度(町の持ち出しなしで回っているか)、横軸は資産への根ざし度(久山にしかないものに根ざしているか)。

回ってはいるが、よそでもできる ハコと実証で止まる 資産はあるが動かない 空 席 18年間、町が埋められなかった領域 資産への根ざし度 → 自走度 → 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
← 借り物のトレンド 久山にしかないもの →

点線の丸=進んでいない事業(構想止まり・中止・基準値から後退・実装が頭打ちで伸ばす計画なし)。配置は町の公表資料(第3期総合戦略の第2期検証、決算状況、各事業ページ)の数字にもとづく。年は開始年。

  • 1
    ツキイチ登山会2020〜
    遺跡来訪は5年で2万人超。ハコを建てず山道を開いただけ。歴史ボランティアは目標30人/年に対し90人/年(評価A)。ところが第3期戦略は、ガイダンス施設に年1.2万人を呼ぶ目標を掲げながら、案内するボランティアの新目標を45人/年——達成済みの90人の半分に置いた。
  • 2
    ふるさと納税の拡充〜2024
    寄附者2,220人/年 → 25,000件/年。返礼品62→146品。町最大の外貨獲得。
  • 3
    草場地区の宅地造成〜2024
    造成完了、全区画売却済。回るが、田園を宅地に替える=資産を減らす方向の自走。
  • 4
    森林整備継続
    481ha → 540ha(目標530ha超え)。資産そのものだが、補助金で回る構造。
  • 5
    新国富指標の導入2017〜
    日本初。だが96.37→93.33百万円/人に低下。内訳は自然資本0.30%、人工資本72%。
  • 6
    カーボンクレジット2021〜
    町有林×九電×九大(J-クレジット登録番号312)。認証は累計641トン。売却済みは151トン・75万5000円(単価5000円/t・買い手は佐賀の協同組合、議会答弁)。町の想定は8年間で総額600〜700万円。KPIは2029年目標=基準値と同じ100トン/年。伸ばす計画がない。
  • 7
    そらや2019〜
    起業支援と新産業創出が看板。実際は契約4社すべて大企業、特産品開発・キッチン利用ゼロ、登記不可
  • 8
    e-kakashi(デジタルかかし)2024〜
    山田小の学校水田1枚にIoTセンサー+出前授業。受益者は5年生1学年。農家には届いていない。
  • 9
    アイガモロボ(推定)実証段階
    久山での導入を示す公表資料はゼロ。KPIは「機器の利用件数:実証実験 → 5年後に4件」。
  • 10
    首羅山ガイダンス施設2027予定
    遺跡の実績は年約4,000人。施設の目標は12,000人/年3倍の根拠は資料にない。
  • 11
    みんなでつくる公園づくり2022〜
    住民ワークショップ4回。2024年時点でまだ設計段階、全面供用は2029年目標。着工していない。
  • 12
    カーボンネガティブ&ネイチャーポジティブ宣言2022
    脱炭素チャレンジカップ2023で文部科学大臣賞。宣言と受賞は得たが、実装は8年で600〜700万円想定のクレジット販売と、売却益による林業助成年58万円にとどまる。
  • 13
    ひさやまてらこや+継続
    放課後の学習支援。人的資本に効くが、町の持ち出しで回る事業。
  • 14
    みらいパスポート(グローバル人材育成)継続
    海外派遣・英語教育。受益は限られ、町費依存。
  • 15
    kencom(健康アプリ)継続
    登録1,766人で目標達成(A)。久山町研究の土台を持つ町らしい施策だが、運営は事業者側。
  • 16
    イコバス(町内バス)継続
    利用194,112人/年で1.3倍。ただし住民満足度は92%→75%に低下。
  • 17
    GPS見守り端末継続
    高齢者見守り。普及率16.8%で目標未達(B)。
  • 18
    久山中学校図書館リニューアル継続
    改修は完了し日常的に使われている。ハコの更新としては手堅い。
  • 19
    健康情報戦略(HP・広報・庁舎ロビー刷新)継続
    見せ方の刷新。発信力は上がったが、事業そのものを生まない。
  • 20
    行政DX・総合窓口継続
    窓口の一本化と電子化。住民の手間を実際に減らした数少ない実装。
  • 21
    地域づくり会社・DMO構想構想のみ
    久山町未来デザイン協議会を設置しDMO設立を視野。会社は未設立のまま第2期終了。
  • 22
    共感型ファンド・空き家活用の運営組織構想のみ
    目標3件に対し実績0件。組織もファンドも立ち上がらなかった。
  • 23
    体験農園・観光農園の整備構想のみ
    目標3箇所に対し実績0箇所。農と観光をつなぐ計画は動かず。
  • 24
    運転診断事業・お稽古マッチング中止
    いずれもコロナで未着手のまま中止(町の自己評価D)。
  • 25
    道の駅構想頓挫
    計画されたが実現せず。ロードサイドの集客装置は結局できていない。
  • 26
    山田中学校 特別教室棟完了
    ハコとしては完成。稼働率と維持費に対する説明は乏しい。
  • 27
    農地集約継続
    基準57ha → 実績35.5ha(目標80ha)。基準値より後退したのに町の評価はB。
  • 28
    先導的グリーンインフラ連携協定2021〜
    九州の主要企業3社と締結。協定は結ばれたが、そこから生まれた事業は確認できない。

右上の空席

18年で、資産に根ざしながら自走した事業は「1」だけ。しかもそれは、山道を開いて毎月歩いただけの、いちばん金のかかっていない企画だった。町がここを埋められなかったことが、このマップのいちばんの発見にあたる。

読み取れる3つのこと

マップの形が示していること。

下半分に固まっている。28のうち19が自走度50未満。町は器(施設・協定・宣言・受賞)は作れるが、続く主体を作れない。地域づくり会社ゼロ、共感型ファンドゼロ、体験農園ゼロ、DMO未設立——「組織をつくる」系は全滅している。

左上は、資産を削って回している。宅地造成は確かに完売した。だが売れた分だけ田園は減る。回る事業ほど久山らしさから離れる、という反比例がこの町の芯にある。

右下が、いちばんもったいない。森林も町有林も遺跡も本物の資産なのに、100トンで頭打ち、3倍の集客を前提に施設を建てる。資産の質ではなく、使い方で損をしている。

5. これから使うお金 — 首羅山遺跡ガイダンス施設

判明している分だけで、約7.5億円が首羅山に向かう。

首羅山遺跡ガイダンス施設の投入額(368万→256万→5345万→3.8億円)

令和8年度予算の3.8億円に加えて、令和9年度への支払い枠(債務負担行為)2.8億円がすでに議決済み。判明分の単純合算は約7.5億円——それでも完成までの総事業費を町は公表していない(議員の反対討論も「資料が出てない」)。しかもこの7.5億円は下限とみるべきだ。予定地では「大規模な遺構」が見つかり予算組み替えが行われ(2026年1月臨時会・影響は未説明)、設計は一度やり直され、展示製作費の所在も不明——7,000万円の構想を10年で10倍にしたプロジェクトの、これが途中経過である。「国の補助事業ではありません」(町長・2023年3月議会)=原則自腹で、開設後の運営費は金額の答弁がゼロ。直営か指定管理かさえ「これから検証」だ。2015年の旧構想では7,000万円だった施設が、10年で10倍の規模に育った。遺跡の来訪実績は年約4,000人、施設の目標は年12,000人。いっぽう同じ山で、山道を開いて毎月歩くだけのツキイチ登山会(参加費300円)は5年でのべ2万人超を集めた。7.5億円のハコと、ほぼゼロ円の山道。どちらが久山の資産を活かしているかは、読み終えたあなたに判断してほしい。

収支の算数 — 損益分岐は、示されていない

公表されているのは、カフェ・産直の「構想」と来場12,000人の「目標」だけ。収支計画は存在せず、運営戦略はいま外注で策定中——7.5億円を議決したあとで、商売の方法を考え始めた順序になっている。損益分岐点を町は示していないので、こちらで試算する。運営費をこの規模の史跡施設の相場(年1,500万〜2,500万円)とすると、入館料300円で賄うには年5万〜8.3万人。開館日で割れば1日167〜277人が、平日も真冬も毎日来続ける必要がある。町の目標は1日40人。現在の遺跡来訪は1日11人だ。分岐点は目標の5倍、現実の20倍——観光バス4〜5台分の来客を年300日集める、道の駅や有名観光地の水準にあたる。そしてこの町は、道の駅構想を頓挫させた町である(事業25)。初期投資7.5億円の回収(30年償却)まで含めれば、分岐は年15万人・1日500人。裏返せば、施設を1日開けるごとに約15万円の税金が要る計算になる。参考までに、遺跡系で1日500人を超えるのは国営の吉野ヶ里歴史公園(年約60万人・104haの復元テーマパーク)や世界遺産・三内丸山遺跡(県営・年30万人規模)のジャンルであり、市町村立の史跡ガイダンス施設にこの水準の前例は見当たらない

回収の見込めない初期投資7.5億円は、町民1人あたり約8.3万円(4人家族で約33万円)。運営赤字が年2,000万円なら、1人あたり年2,200円を施設がある限り払い続ける。歳入の柱が町民の稼ぎではなく企業の土地建物への固定資産税(町税の64%)で、自前の持続可能な産業が細いこの町にとって、軽い負担ではない。「住民サービスだから赤字でよい」という説明は、起業支援の看板と実態が乖離した「そらや」(事業7)の前例があるぶん通りにくく、かといって「教育・文化施設として年間◯千万円を払う価値がある」という正面からの説明も、まだ数字では示されていない。

6. 次の一年の計画 — 令和8年度 当初予算

決算(実績)は令和6年度が最新。その先は、年度はじめの予算(計画)で見える。

令和8年度当初予算73.1億円のサンキー図(繰入金5.9億円・首羅山3.8億円)

総額73.1億円は前年度比+4.1億円(5.9%増)の積極予算。緑の帯は、広報が挙げる新規・拡充事業(計8.3億円)=自由に使うお金のおもな使い道。最大の枝は首羅山ガイダンス施設3.8億円で、教育費12.9億円の29%を占める。そして歳入側の変化に注目——貯金の取り崩し(繰入金)が5.9億円(赤茶の帯)。令和6年度決算ではわずか0.1億円だった。攻めの一年の原資は、これまで貯めてきた基金だ。

出典|総務省「令和6年度 市町村決算カード」(普通会計)、久山町「令和6年度 決算状況」、広報ひさやま 予算特集(令和6〜8年度)、久山町 入札結果、総務省「ふるさと納税に関する現況調査」、第3期久山町まち・ひと・しごと創生総合戦略(2025年3月・第2期検証を含む)、久山町公式サイト各事業ページ。事業9は久山町での実施を示す公表資料が確認できず、総合戦略のKPI記述からの推定。町は事業ごとの決算額を公表していないため、サンキー図の事業の枝は当初予算額・落札額で示している。

→ 連載第10章「久山町の財政地図」で、この21年の推移を読む

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