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久山町|令和6年度決算とお金の流れ

久山町のお金は、
どこから来て、どこへ行くのか

令和6年度、久山町には71.4億円が入り、65.8億円が出ていった。帯の太さは金額の大きさ。数字はすべて総務省の決算カードと町の公表資料から取った。まず全体を眺め、次に「自由に使えるお金」がいくらあるかを見て、最後に町がそのお金で何をしてきたか・これから何をするかを見る。

1. 全体の流れ — どこから入り、どこへ出ていくか

左が収入、右が支出。左の緑=自力で集めたお金(税・寄附)、グレー=国や県から入るお金、薄いグレー=繰越。右端は歳出の性質:暗い赤=固定費、赤=毎年の運営費、緑=自由に使えたお金

令和6年度 久山町決算のサンキー図(目的別・歳入71.4億円/歳出65.8億円)

収入でいちばん大きいのは町税24.3億円(全体の34%)。その中心は固定資産税15.7億円だ。固定資産税は、土地や建物を持つ人・会社が払う税金のこと。久山町にはトリアスや物流倉庫などの大きな施設があるので、町税の64%がこの固定資産税で占められている。町民税は個人4.4億円+法人2.7億円。ふるさと納税も7.0億円まで育った。

緑の帯を全部足すと、町が自力で集めたお金は約31.5億円=収入の44%。残りの半分以上は、国や県から入るお金と、前の年からの持ち越し(繰越)でできている。

そして右端が、この図の結論だ。どの費目を通っても、お金は最後に3つに分かれる。固定費22.2億円(必ず出ていくお金)、毎年の運営費32.8億円、自由に使えたお金10.8億円。自由なお金の出どころは、総務費の積立2.9億・土木費の工事3.1億・教育費の工事2.6億など。民生費(福祉)17.1億円には自由分がほぼない——福祉は「決まって出ていくお金」の塊だ。家計簿ふうに言えば、自由に動かせたのは工事・積立10.8億円+翌年への繰越5.6億円=16.4億円(23%)だった。

ただし「自由」には、ひとつ注釈がいる。工事7.9億円のうち、町の自前の現金(一般財源)は2.0億円だけ。2.8億円は町債(町の借金)、1.1億円は国や県の補助、1.7億円は寄附などで賄われた。借金は法律上、建設にしか使えない決まりになっている(建設公債主義)。そして借りた分は、これから毎年の返済=固定費に変わって返ってくる。自由に使えたお金の3分の1は、未来の固定費の前借りである。

目的別×性質別の内訳は総務省「地方財政状況調査」の決算値。山田小の改修0.89億円・図書館リニューアル0.23億円・公園0.21億円などの個別事業は、緑の帯の中身にあたる(金額は当初予算・落札額)。

2. 総務費はなぜ太いか — 中身と、ふるさと納税の実入り

総務費16.4億円は歳出の25%。福岡都市圏の周辺自治体でも新宮町(32.3%)に次いで高い。正体を分解する。

総務費16.4億円の内訳(役場運営62.6%・ふるさと納税経費19.5%・貯金への積立17.9%)

総務費の公式の内訳は公表されていない。だが、説明できる塊が2つある。ふるさと納税の経費(推定3.2億円)と、貯金への積立(2.9億円)だ。

この2つを引いた「素の役場運営」は約10.3億円=歳出の16%で、県内では標準的な水準に収まる。つまり役場が太っているのではなく、ふるさと納税の経費と貯金づくりが総務費の中に沈んでいる。周辺で総務費の割合が高いのは新宮町(寄附37.7億円)、次いで久山町(寄附7.2億円)——ふるさと納税が大きい町ほど、総務費は太って見える。

ふるさと納税受入7.1億円のゆくえ(手取り54.5%・返礼品23.3%・事務17.4%など)

そのふるさと納税は、受入7.1億円に対して経費が3.2億円(45.5%)。町の手取りは約3.9億円で、半分は返礼品・サイト手数料・送料に消える。

収入の帯では「寄附金7.2億円」に見えても、実際に使えるのはその半分。同じ億円でも、地方交付税の9.8億円とは中身が違う。

3. では、そのお金で何をしてきたか — 28事業の成績表

縦軸は自走度(町の持ち出しなしで回っているか)、横軸は資産への根ざし度(久山にしかないものに根ざしているか)。

空 席 18年間、町が埋められなかった領域 資産への根ざし度 → 自走度 → 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 回ってはいるが、よそでもできる ハコモノとテストだけで終わる 資産はあるが動かない 回っていて、久山にしかない

点線の丸=進んでいない事業(構想止まり・中止・基準値から後退・実装が頭打ちで伸ばす計画なし)。配置は町の公表資料(第3期総合戦略の第2期検証、決算状況、各事業ページ)の数字にもとづく。年は開始年。

  • 1
    ツキイチ登山会2020〜
    遺跡来訪は5年で2万人超。ハコを建てず山道を開いただけ。歴史ボランティアは目標30人/年に対し90人/年(評価A)。ところが第3期戦略は、ガイダンス施設に年1.2万人を呼ぶ目標を掲げながら、案内するボランティアの新目標を45人/年——達成済みの90人の半分に置いた。
  • 2
    ふるさと納税の拡充〜2024
    寄附者2,220人/年 → 25,000件/年。返礼品62→146品。町最大の外貨獲得。
  • 3
    草場地区の宅地造成〜2024
    造成完了、全区画売却済。回るが、田園を宅地に替える=資産を減らす方向の自走。
  • 4
    森林整備継続
    481ha → 540ha(目標530ha超え)。資産そのものだが、補助金で回る構造。
  • 5
    新国富指標の導入2017〜
    日本初。だが96.37→93.33百万円/人に低下。内訳は自然資本0.30%、人工資本72%。
  • 6
    カーボンクレジット2021〜
    町有林×九電×九大(J-クレジット登録番号312)。認証は累計641トン。売却済みは151トン・75万5000円(単価5000円/t・買い手は佐賀の協同組合、議会答弁)。町の想定は8年間で総額600〜700万円。KPIは2029年目標=基準値と同じ100トン/年。伸ばす計画がない。
  • 7
    そらや2019〜
    起業支援と新産業創出が看板。実際は契約4社すべて大企業、特産品開発・キッチン利用ゼロ、登記不可
  • 8
    e-kakashi(デジタルかかし)2024〜
    山田小の学校水田1枚にIoTセンサー+出前授業。受益者は5年生1学年。農家には届いていない。
  • 9
    アイガモロボ(推定)実証段階
    久山での導入を示す公表資料はゼロ。KPIは「機器の利用件数:実証実験 → 5年後に4件」。
  • 10
    首羅山ガイダンス施設2027予定
    遺跡の実績は年約4,000人。施設の目標は12,000人/年3倍の根拠は資料にない。
  • 11
    みんなでつくる公園づくり2022〜
    住民ワークショップ4回。2024年時点でまだ設計段階、全面供用は2029年目標。着工していない。
  • 12
    カーボンネガティブ&ネイチャーポジティブ宣言2022
    脱炭素チャレンジカップ2023で文部科学大臣賞。宣言と受賞は得たが、実装は8年で600〜700万円想定のクレジット販売と、売却益による林業助成年58万円にとどまる。
  • 13
    ひさやまてらこや+継続
    放課後の学習支援。人的資本に効くが、町の持ち出しで回る事業。
  • 14
    みらいパスポート(グローバル人材育成)継続
    海外派遣・英語教育。受益は限られ、町費依存。
  • 15
    kencom(健康アプリ)継続
    登録1,766人で目標達成(A)。久山町研究の土台を持つ町らしい施策だが、運営は事業者側。
  • 16
    イコバス(町内バス)継続
    利用194,112人/年で1.3倍。ただし住民満足度は92%→75%に低下。
  • 17
    GPS見守り端末継続
    高齢者見守り。普及率16.8%で目標未達(B)。
  • 18
    久山中学校図書館リニューアル継続
    改修は完了し日常的に使われている。ハコの更新としては手堅い。
  • 19
    健康情報戦略(HP・広報・庁舎ロビー刷新)継続
    見せ方の刷新。発信力は上がったが、事業そのものを生まない。
  • 20
    行政DX・総合窓口継続
    窓口の一本化と電子化。住民の手間を実際に減らした数少ない実装。
  • 21
    地域づくり会社・DMO構想構想のみ
    久山町未来デザイン協議会を設置しDMO設立を視野。会社は未設立のまま第2期終了。
  • 22
    共感型ファンド・空き家活用の運営組織構想のみ
    目標3件に対し実績0件。組織もファンドも立ち上がらなかった。
  • 23
    体験農園・観光農園の整備構想のみ
    目標3箇所に対し実績0箇所。農と観光をつなぐ計画は動かず。
  • 24
    運転診断事業・お稽古マッチング中止
    いずれもコロナで未着手のまま中止(町の自己評価D)。
  • 25
    道の駅構想頓挫
    計画されたが実現せず。ロードサイドの集客装置は結局できていない。
  • 26
    山田中学校 特別教室棟完了
    ハコとしては完成。稼働率と維持費に対する説明は乏しい。
  • 27
    農地集約継続
    基準57ha → 実績35.5ha(目標80ha)。基準値より後退したのに町の評価はB。
  • 28
    先導的グリーンインフラ連携協定2021〜
    九州の主要企業3社と締結。協定は結ばれたが、そこから生まれた事業は確認できない。

右上の空席

18年で、資産に根ざしながら自走した事業は「1」だけ。しかもそれは、山道を開いて毎月歩いただけの、いちばん金のかかっていない企画だった。町がここを埋められなかったことが、このマップのいちばんの発見にあたる。

読み取れる3つのこと

マップの形が示していること。

下半分に固まっている。28のうち19が自走度50未満。町は器(施設・協定・宣言・受賞)は作れるが、続く主体を作れない。地域づくり会社ゼロ、共感型ファンドゼロ、体験農園ゼロ、DMO未設立——「組織をつくる」系は全滅している。

左上は、資産を削って回している。宅地造成は確かに完売した。だが売れた分だけ田園は減る。回る事業ほど久山らしさから離れる、という反比例がこの町の芯にある。

右下が、いちばんもったいない。森林も町有林も遺跡も本物の資産なのに、100トンで頭打ち、3倍の集客を前提に施設を建てる。資産の質ではなく、使い方で損をしている。

4. これから使うお金 — 首羅山遺跡ガイダンス施設

判明している分だけで、約7.5億円が首羅山に向かう。

首羅山遺跡ガイダンス施設の投入額(368万→256万→5345万→3.8億円)

令和8年度予算の3.8億円に加えて、令和9年度に支払うと約束した枠(債務負担行為)2.8億円がすでに議決済み。判明している分を合計すると約7.5億円になる。それでも完成までの総事業費を、町はまだ公表していない(議員の反対討論も「資料が出てない」)。

しかも7.5億円は下限とみるべきだ。予定地では「大規模な遺構」が見つかって予算の組み替えが行われ(2026年1月臨時会・影響額は説明なし)、設計は一度やり直され、展示をつくる費用がどこに入るのかも分かっていない。7,000万円の構想が10年で10倍に育ったプロジェクトの、これが途中経過である

「国の補助事業ではありません」(町長・2023年3月議会)。つまり原則自腹だ。開館後の運営費は、金額の答弁がゼロ。町が直接運営するのか、業者に任せる(指定管理)のかさえ「これから検証」だという。

遺跡を訪れる人は年約4,000人。施設の目標は年12,000人。いっぽう同じ山で、山道を開いて毎月歩くだけのツキイチ登山会(参加費300円)は、5年でのべ2万人を集めた。7.5億円のハコと、ほぼゼロ円の山道。どちらが久山の資産を活かしているかは、読み終えたあなたに判断してほしい。

収支の算数 — 損益分岐は、示されていない

1日あたり、何人来れば回るのか 入館料300円・開館300日で試算 0人100人200人 300人400人500人 運営費だけの分岐 167〜277人 現状 1日11人 町の目標 1日40人 建設費の回収まで含めた分岐 1日500人 現状の45倍・目標の12.5倍

公表されているのは、カフェ・産直の「構想」と、来場12,000人の「目標」だけ。収支計画は存在せず、運営の戦略はいま外注で作っている最中だ。7.5億円を議決したあとで、商売の方法を考え始めた順序になっている。

損益分岐点——「1日に何人来ればトントンになるか」を町は示していないので、こちらで試算する。運営費をこの規模の史跡施設の相場(年1,500万〜2,500万円)とすると、入館料300円で賄うには年5万〜8.3万人。開館日で割ると1日167〜277人が、平日も真冬も毎日来続ける必要がある。

町の目標は1日40人。現在の遺跡来訪は1日11人だ。分岐点は目標の5倍、現実の20倍。観光バス4〜5台分のお客さんを年300日集める——道の駅や有名観光地の水準にあたる。そしてこの町は、道の駅の構想を頓挫させた町である(事業25)。

建てた7.5億円を30年かけて回収する計算まで含めると、分岐は年15万人・1日500人。裏返せば、施設を1日開けるごとに約15万円の税金がいる。遺跡系で1日500人を超えるのは、国営の吉野ヶ里歴史公園(年約60万人)や世界遺産・三内丸山遺跡(県営・年30万人規模)のジャンルで、市町村立のガイダンス施設にこの水準の前例は見当たらない

なお、償却を建物の寿命どおり50年に延ばせば、分岐は1日約400人まで下がる。ただしこの試算は、15年ごとの設備更新も、展示の更新も、30年目ごろの大規模改修も含んでいない。それらを含めた施設の生涯コストは、建設費の2〜3倍が相場だ。1日500人は、大げさどころか控えめな数字である。

回収の見込めない7.5億円は、町民1人あたり約8.3万円(4人家族で約33万円)。運営の赤字が年2,000万円なら、1人あたり年2,200円を、施設がある限り払い続ける。「住民サービスだから赤字でよい」という説明は、看板と実態がずれた「そらや」(事業7)の前例があるぶん通りにくい。かといって「教育・文化のために年◯千万円払う価値がある」という正面からの説明も、まだ数字では示されていない。

会計の帳簿では、完成した建物は町の「資産」に載る。だが、ここまでの算数のとおり、この施設が自分の維持費を稼ぐ見込みは薄い。帳簿では資産、家計の実感では毎年引き落としのある契約——資産の形をした、将来コストの約束である。

同じ町の、もう一つの判断 — 給食

中学給食(自校式でつくる案) 約4億円 建てる費用のみ(ランチルーム新設込み)・ランニングは「別にかかる」と明言 審査した 初期費用・運用費用・維持管理費用 + 用地確保 (教育長・2026年3月議会) 建てない → 弁当配達方式の完全給食へ(2026年9月) 首羅山ガイダンス施設 7.5億円 建てる費用のみ・運営費は金額の答弁がないまま議決 審査なし 収支計画・損益分岐・運営費の想定 ——いずれも示されないまま議決 建てる → 経営計画は着工後に策定(2027年3月までに) 審査があったのは、4億円のほうだけ。

この算数に、既視感を覚える町民がいるかもしれない。給食である。久山町は、福岡県内60市町村のうち中学校の完全給食をやっていない5つの自治体のひとつだった(小学校には昔から自校方式の完全給食がある)。中学は弁当持参が基本で、配られるのは牛乳だけ。かつて「愛情弁当」と呼ばれた方針だ——「『道徳の町』宣言をして、愛情弁当と過去に言われたこともありますけれども、もう時代が変わってきた」(2024年9月議会・議員発言)。

2015年、当時の町長は中学に給食室をつくる費用を「何もかんもで4億円近く」と答弁し、話は前に進まなかった。2019年に選択制の業者弁当が始まり、2026年3月、町はようやく「9月から弁当配達方式の完全給食」を表明する。給食室もセンターも建てない方式だ。理由を教育長はこう説明した——給食室の新設は「初期費用・運用費用・維持管理費用などのコスト面、用地確保の面からも難しい」(2026年3月議会)。町長も言う——「これから人口減少になったとき……かなり町の負担は今後大きくなってくる」(2024年9月議会)。

なお、どちらの金額も「建てる費用」だけの数字なので、4億円と7.5億円は同じ土俵で比べられる(給食の4億円にはランチルームの新設まで含まれていた——教室で食べる前提なら、もっと安くできたはずだ)。違いはひとつ。給食では「ランニングコストが別にかかる」ことまで語られて却下されたのに、首羅山では運営費の金額が一度も答弁されないまま議決された

給食をやめた判断そのものは、正しいと思う。費用を3つの面から見比べて、ハコを建てない道を選ぶ。これは投資の規律そのものだ。問題はひとつだけ——この審査が、毎日約330人の生徒が確実に使う給食には適用され、1日11人の遺跡に建つ7.5億円には一度も適用されていないことである。確実に読める需要ほど厳しく審査し、いちばん不確実な需要をフリーパスにする。規律が、リスクと逆向きにかかっている。教育長の言葉は、一語も変えずにガイダンス施設に当てはまる。当てはめなかった理由だけが、まだ説明されていない。

なぜ、計画なしで通るのか — 関所のない制度

お金が出るまでの「関所」 自腹こそ、いちばん審査が少ないルート 民間の投資 事業計画 銀行・株主の審査 返済計画・採算を出さないと通らない 投資できる 国の補助事業 事業計画 国の審査 要件・効果の確認を通らないと出ない 交付される 首羅山(自腹) 予算案 議決(多数決)のみ 収支計画のチェックは制度上、存在しない 7.5億円

ここまで読むと、当然の疑問が湧くはずだ。経営計画がないのに、なぜ建設の予算が通るのか。答えは拍子抜けするほど単純で、通すのに経営計画を要求するルールが、そもそも存在しない

町の予算に法律が求めるのは、町長がつくった予算案と、議会の議決——それだけである。予算書は数字の束で、そこに添える説明資料の中身を決める全国ルールはない。建設の前につくる構想や設計図は「何を建てるか」の話で、「建てたあとどう回すか」は別の書類。そしてその書類は、義務ではない。

借金(町債)なら審査があるのでは、と思うかもしれない。あるにはあるが、県が見るのは町全体の返済能力であって、その事業がもうかるかどうかではない。国の補助事業なら国の審査が入るが、首羅山は「国の補助事業ではありません」——自腹である。そして自腹こそが、いちばん審査の少ないルートなのだ。

民間で計画なしの投資があり得ないのは、経営者が立派だからではない。お金の出し手——銀行や株主——が事業計画を要求するからだ。町でその役を担うはずの議会には、「計画が出るまで議決しない」と言わせる仕組みがない。資料が出ていないという反対討論があっても、多数決で通れば通る。

皮肉をひとつ。もし町がPFI(民間のお金で建てて運営する方式)を選んでいたら、法律の手続き上、「投じる税金が価値に見合うか」の計算(VFM)が義務になり、収支の試算を出さざるを得なかった。直営・自腹という「いちばんまっすぐな」やり方を選んだ結果、いちばん関所の少ない道を通った。制度の穴は、こういう形をしている。

ただし、この穴を自分でふさいだ自治体はある。同じ福岡県の北九州市は、公共事業評価に着工前の「事前評価」の仕組みを持ち、内部・外部の検討とパブリックコメントを経て方針を公表している(福岡市も、事前ではないが完成後のチェックと毎年約1,200事業の点検を常設している)。だから、この記事の提案はふたつ。策定中の経営計画に、撤退・見直しの基準を数値で書き込むこと(来場が何人を、持ち出しが年いくらを、何年下回ったら運営の形を変えるのか)。そして久山町に、大規模事業評価のルールをつくること——大きな事業は、予算をつける前に収支計画と代替案の比較を出す。関所がひとつあるだけで、そらや(事業7)から首羅山への繰り返しは、三度目を起こせなくなる。反省は要らない。仕組みが要る。

5. 次の一年の計画 — 令和8年度 当初予算

決算(実績)は令和6年度が最新。その先は、年度はじめの予算(計画)で見える。

令和8年度当初予算73.1億円のサンキー図(繰入金5.9億円・首羅山3.8億円)

総額73.1億円は、前年度より4.1億円多い(5.9%増)攻めの予算。右側の緑の枝は、広報が挙げる新規・拡充事業(計8.3億円)=自由に使うお金のおもな使い道(左側の緑は決算図と同じく自力で集めるお金)。最大の枝は首羅山ガイダンス施設3.8億円で、教育費12.9億円の29%を占める。

収入側の変化にも注目してほしい。貯金の取り崩し(繰入金)が5.9億円(薄いグレーの帯)。令和6年度決算ではわずか0.1億円だった。攻めの一年の元手は、これまで貯めてきた貯金だ。

つまりこの一年で起きるのは、こういう変換である。自由に動かせた貯金が、維持費のかかる建物と、来年の支払い枠(債務負担行為2.8億円)と、開館後ずっと続く運営費に置き換わる。1章で見た「固定費」は、こうして増えていく。

6. 計画を読む — 最上位計画に、7.5億円が載っていない

お金の次は、方向を決める文書。総合計画・総合戦略・都市計画マスタープランを全文読んだ。

町の最上位計画は「第4次久山町総合計画」(令和4〜13年度)。将来像は「だれもが生き生きと暮らせる『健康田園都市』の実現」で、前期基本計画(令和4〜8年度)には分野ごとの成果指標も並ぶ——首羅山遺跡の登山者を5,000人から10,000人へ、という数字もある。計画をつくる力は、ある。

だが、この記事で追いかけてきた7.5億円——首羅山ガイダンス施設は、総合計画の本編に一度も登場しない(全文を検索した)。載っているのは「首羅山遺跡をはじめとした町の歴史にふれる機会を広げる」という一文と、登山者の目標だけ。施設が明文化されているのは別系統の「第3期総合戦略」(2025年3月)で、KPI「ガイダンス施設来場者数 0人→12,000人/年(2029年目標・2027年オープン)」が載る。そして投資額は、どちらの計画にも書かれていない。町でいちばん大きな投資が、最上位計画には存在せず、金額はどの計画からも見えない。

検証の回路はどうか。総合計画は「毎年度、事業の検証と見直しを行います」と宣言する。だが毎年の住民調査はなく(調査は策定時の1回・回収235件)、審議会は策定時の5回で役目を終え、年次の評価結果の公表は確認できない。実施事業一覧の公表も令和6年度分で止まっている。姉妹編で見た福岡市——毎年4,500人の市民意識調査、審議会と議会への年次報告、毎年約1,200事業の点検——と比べると、久山町は「計画は精緻、検証は薄い」。部品は揃っているのに、回路が閉じていない。

一方で、胸を張っていい文書もある。都市計画マスタープラン(令和6年12月改訂)だ。昭和44年に町域の約97%を市街化調整区域に指定し、平成18〜19年には「開発を抑制する施策から、地区計画制度を活用し計画的に開発を行う施策へ転換」。市街化調整区域の地区計画33箇所(集落型23・非住居系10)を積み上げた「久山方式」はこの町にしかない実装で、「都市計画法上開発行為にあたらない物流倉庫が建設されたりするなど、都市計画における新たな課題が生じています」と、うまくいっていない部分まで文書に書き込む正直さもある。土地の使い方には、規律と検証がある。お金の使い方に、それがない。この非対称が、この町の計画文書を全部読んだ結論である。

そして、修正の窓はいま開いている。総合計画の後期基本計画(令和9〜13年度)が今年度つくられるはずで、首羅山の経営計画も2027年3月までに固まる。7.5億円の施設を最上位計画に正面から書き込み、投資額と撤退基準と年次検証をセットで載せる——2つの計画が同時に動く今年度が、それを求める最初で最後の機会になる。

7. この記事を、座談会の資料にする — 議論すべき5つの論点

批判で終わらせないための章。

7.5億円は、もう議決されている。だから問いは「やめるべきか」ではなく、「どうすれば成功するのか」に変わった。この記事の数字を共通の土台にして、町民・事業者・行政がひとつのテーブルで議論する座談会を企画している。論点は、ここまでの算数からそのまま導かれる、次の5つだ。

論点1|来場者を、どこまで増やせるか。建設費の回収まで含めた分岐は1日500人、運営費だけなら1日167〜277人。市町村立のガイダンス施設単体でこの水準の前例はない。だが同じ山で、ほぼゼロ円の山道が5年でのべ2万人を集めた実績はある。施設単体ではなく、山・遊び場・体験を束ねた「面」で考えたとき、何人まで現実的か。

論点2|中身を、誰が運営するか。カフェも産直も、直営か指定管理か委託かも、まだ白紙だ。白紙ということは、提案が入る余地が全部残っているということでもある。町内外に担い手はいるか。手を挙げる者はいるか。

論点3|集客で回らないなら、値札を正面から出せるか。「教育・文化施設として年間◯千万円を払う価値がある」——この一文を、数字入りで言い切れるか。言い切れるなら、その価値の中身は何か。言い切れないなら、何が足りないのか。

論点4|撤退・見直しの基準を、経営計画に書き込めるか。来場が何人を、持ち出しが年いくらを、何年下回ったら、運営の形を変えるのか。数値のない計画は、計画ではなく作文である。

論点5|関所を、つくるか。総事業費が一定額を超える事業には、予算計上の前に収支計画と代替案の比較を義務づける——「大規模事業評価」の要綱を、久山町にもつくるか。これがあれば、同じ繰り返しは三度目を起こせない。

この記事の数字はすべて末尾の公表資料から拾ったものだ。誤りがあれば正してほしい——数字が正されるほど、議論は良くなる。座談会に参加したい方、こちらが持っていないデータをお持ちの方は、特定非営利活動法人mie(mie.npo.fuk@gmail.com)まで。

出典|総務省「令和6年度 市町村決算カード」(普通会計)、久山町「令和6年度 決算状況」、広報ひさやま 予算特集(令和6〜8年度)、久山町 入札結果、久山町議会 会議録(給食に関する引用は平成27年9月・令和6年9月・令和8年3月ほか各定例会)、総務省「ふるさと納税に関する現況調査」、第3期久山町まち・ひと・しごと創生総合戦略(2025年3月・第2期検証を含む)、第4次久山町総合計画(令和4年3月・本編)、久山町都市計画マスタープラン(令和6年12月改訂版)、久山町公式サイト各事業ページ。事業9は久山町での実施を示す公表資料が確認できず、総合戦略のKPI記述からの推定。町は事業ごとの決算額を公表していないため、サンキー図の事業の枝は当初予算額・落札額で示している。

→ 連載第10章「久山町の財政地図」で、この21年の推移を読む

→ 姉妹編「福岡市のお金は、どこから来て、どこへ行くのか」— 同じ物差しで政令市を見る

→ 連載「2025 ESSAYS」の目次へ