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CHAPTER 02

日本の崩壊サインマクロ社会指標

ここから少し、空気が変わります。

こういう活動が「社会的に意味があるかどうか」を語るには、今の社会がどんな状態にあるのかを、まずなるべく正確に見ておかないといけません。

子ども、家族、労働、財政──マクロデータで日本の今を直視する章です。気持ちが沈む数字も出てきますが、悲観のための章ではなく、この先の議論の足場を作るための章として、淡々と並べていきます。

なぜ「社会指標」を見るのか

経済の話──日経平均、円相場、インフレ率、企業決算──は毎日目にします。NISAの流行りもありますが、私の幼少期から既に、ニュースなど映像メディアでは、公共性より私有財産を気にしてしまう番組デザインだったなぁとしみじみ思います。

社会の「人間そのものの状態」を示す数字、つまり社会指標は、相対的にメディアに出てきません。

ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーの言葉を借りると「資本主義がうまく機能するためにも、民主主義が機能するためにも、それを動かす人の感情や教養が豊かでなければならない」。

つまり、経済の数字を追っているだけでは、社会の状態は分からない。社会指標と経済指標の両方を見て、初めて全体像が見えてくる、という話です。

教育の現場で起きていること

小・中学校の不登校児童生徒数:35万3,970人。過去最多。12年連続で増加。教育職員の精神疾患による病気休職者数:7,119人(令和5年度)。過去最多。

不登校児童生徒数の推移。1998年12.7万人から2024年35.4万人へ

不登校は、10年前と比べて、小学生は約5.5倍、中学生は約2.2倍。

定義が今と同じになった1998年の時点で12万7,692人でした。そこから約3倍。教える側の先生たちも、過去最多の人数で精神疾患の休職に追い込まれている。子どもも、先生も、両方が学校という場所から離脱していっている、という構図です。

子どもの自殺

もう一つ、目を逸らせない数字があります。

小中高生の自殺者数:529人(2024年)。統計のある1980年以降で過去最多。2025年は538人で、さらに更新する見込み(速報値)。

人口10万人あたりの自殺率で見ると、日本の若年層の数字はG7諸国の中で突出して高い。10〜19歳の死因の第1位が自殺になっているのは、G7の中で日本だけです。

小中高生の自殺者数の推移と、G7の死因第1位の比較

経済の数字をどう見るかは、立場によって解釈が変わります。インフレが良いか悪いかも、議論の余地はあると思います。しかし、子どもが自分で命を絶つ数が増え続けている社会を、無条件に「健康だ」と評価する人は、あまりいないと思います。

家族・人とのつながり

家族と人間関係の指標も、似たような方向に動いています。

単身世帯の比率:23%(1980年) → 38%(2020年)。2024年に自宅で死亡した一人暮らしの人:7万6,020人。うち65歳以上が約76%(5万8,044人)(警察庁集計)。そのうち死後8日以上経って発見されたケース:2万1,856人(内閣府は、これを「社会的に孤立していたと強く推認される」状態と整理)。

「孤独死7.6万人」という数字がメディアでよく流れるけれど、これは正確には「自宅で亡くなった一人暮らしの人」の総数で、家族が頻繁に訪ねていた人や、すぐに発見された人も含まれています。

一方で、「死後8日以上発見されない」という条件で見ると、年間2万人を超える人が、誰にも気づかれないまま亡くなっている、ということになります。

どちらの数字を取るにしても、「単身で生きて、単身で死ぬ」人がこれだけ大規模に存在する社会、というのは、人類の歴史の中でも新しい現象なはずです。

単身世帯の割合。1980年23%、2020年38%、2050年推計44%

さらに、2050年には、5世帯のうち2世帯が一人暮らしになる予想です。

親と子の関係

社会指標で、もうひとつ気になっているデータがあります。内閣府が2019年に出した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」という資料です。

日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン──7カ国の若者に、自分の父親・母親をどう思うかを聞いた調査。日本だけが目立って数字が低い項目がいくつもあります。

父親についての肯定的な回答の7カ国比較。日本22.0%が最下位

母親についても、ほぼ同じ傾向で日本が最下位、もしくは下位2位に入ります。

私の解釈としては、家族という単位の中ですら、世代間の継承みたいなものが、うまく回らず、それを複数世代で繰り返している。

これは、親が悪いというより、親が自分の生き方を子どもに渡せるほどの余裕や人生の手応えを、現代社会の中で持ちにくくなっている、ということなのかなと。

資本市場において、大人は入れ替え可能な労働力として評価され、子どもは「できる」「できない」という能力で将来の市場価値を評価される。内省したり、自分自身の成長を喜ぶことよりも、誰と比べて上か下か、他者からの評価軸を気にしやすい構造が広く定着しているように思えます。そんな中では、人生に自信を持って、手応えを確かめながら歩くことは難しいように思えます。

出生数と出生率

耳タコの話だと思いますが、一応、さらっておきます。

合計特殊出生率:2.23(1967年) → 1.15(2024年)。

出生数:194万人(1967年) → 68万6,061人(2024年)。統計開始以来、初の70万人割れ。

東京都の出生率:0.96(2年連続で1.0未満)。

人口維持に必要な水準は2.1。東京都0.96というのは、それを大きく下回るどころか、1.0を割っている。これはつまり、「親世代の人口の半分以下しか、次の世代が生まれていない」ということ。

日本で最も豊かで、最も便利で、最も医療と教育インフラが整っている都市なのに。

普通に考えたら、安全で、便利で、所得も高い場所こそ、子どもを育てやすいはず。なのに、東京は逆になっている。

農業の担い手

農業後継者の未確保率:75.6%(2024年)。

データを取得・分析・活用している農業経営体の割合:1.1%(2020年)。

農業は「これから絶対に必要になる領域」なのに、人もインフラも追いついていません。後継者がいる経営体は4分の1しかない。あと10年経つと、今の農地のかなりの部分が、誰も耕さない状態になる可能性が高く、今でも郊外から僻地まで耕作放棄地だらけな風景は日本全国共通ではないでしょうか?ノンビリムラ周辺では多々見受けられます。

経済の数字も、実はそんなによくない

時間当たり労働生産性:60.1ドル(2024年)。OECD加盟38カ国中28位。米国の半分以下。

一人当たり労働生産性:98,344ドル(2024年)。OECD加盟38カ国中29位。G7で最下位。

IMD世界競争力ランキング:1位(1992年) → 35位(2025年)。

労働生産性は、為替レートの影響もあって単純比較は難しいですが、それでも長期的にずるずると順位を落としてきました。1992年に世界1位だった国際競争力ランキングは、今は35位。33年で34位下がりました。

円安構造も、ざっくり言うと、日本は莫大な国の借金(次のセクションで触れる)を抱えているために金利を上げにくく、結果として通貨が安い状態が固定化しています。

この構造的な通貨安は、ある意味で通貨の緩やかな「暴落」だと言ってもいい、という議論もあります。

国の財政

最後に、財政の数字を。これが一番、未来世代に直接効いてくる話だと思います。

国民負担率:22%(1961年) → 46%(2023年)。

社会保障給付費:140.7兆円(2025年度予算ベース、対GDP比22.4%)。

内訳:年金44.4%、医療30.8%、福祉その他24.8%(うち、こども・子育ては全体の8.5%)。

国債残高:1,129兆円+地方債残高138兆円=合計1,267兆円。

債務残高(対GDP比):248.7%。

債務残高の対GDP比。日本248.7%で主要先進国の世界1位

主要先進国の中で、日本は2倍以上の差をつけて世界1位の借金大国。

社会保障給付費140.7兆円のうち、保険料収入は82.2兆円。差額の約55兆円は、税金と国債(つまり借金)で埋めています。

つまり社会保障システムは、ざっくり言うと毎年55兆円の赤字を出している事業。

そして、その赤字を埋めるために積み上がっている国の借金が1,267兆円。GDPの2.5倍近い。これは、ギリシャやイタリアより圧倒的に多い水準で、主要国の中で日本が抜けて一位の借金大国になっています。

借金を返すには、経済成長率かインフレ率が、債務の上昇率を上回ればよい、という見立てもあります。理屈としてはその通りです。

しかし、現実にはそのために必要な「物価も税率も上げる政策」を打つ政治家を、世論はなかなか選ばない。だから債務が積み上がり続ける構造がほぼ固定化しています。

これは誰か特定の政治家が悪いという話ではなく、短期的に痛みを伴う決断をできる人を、私たちはなかなか選挙で選ばない構造的な問題だと捉えています。未来のために、今、皆さんのお小遣い減らします、と言うわけですから。

こども・子育てに使われているのは、たった8.5%

社会保障給付費140.7兆円の内訳。こども・子育ては8.5%
  • 年金:44.4%
  • 医療:30.8%
  • 福祉その他:24.8%(うちこども・子育ては全体の8.5%)

社会保障の大部分は大人、特に高齢者世代の生活を支えるために使われています。それも必要ですが、社会全体として、「過去と現在を支えること」と「未来を作ること」に不均衡があることは明白です。その結果が、出生率0.96の東京。ではないでしょうか?

若い世代の足元

20代の単身世帯における「貯蓄ゼロ(金融資産非保有)」の割合:40%。

大学等の奨学金利用率:45.2%(ほぼ2人に1人が借金を背負って大学に行く)。

奨学金の平均借入総額:337.7万円(新卒の年収を超える)。

親が負担可能な年間授業料の中央値:44.1万円(国公立大学の年間授業料53.58万円すら賄えない)。

20代の4割が貯蓄ゼロ。半数近くが平均337万円の学費ローンを背負って社会に出てきます。親の負担能力は、国公立の授業料にすら届きません。

この章のまとめ

  • 子ども:不登校過去最多、自殺過去最多、自殺率はG7で日本だけ突出して高い
  • 家族:単身世帯38%、孤立死2万人超、親への尊敬度がG7で最下位
  • 出生:出生率1.15、東京0.96、出生数初の70万人割れ
  • 労働:労働生産性OECDで28〜29位、競争力ランキング35位、構造的円安
  • 財政:社会保障給付費140.7兆円、国の借金1,267兆円(GDP比248.7%)、こども・子育て予算は全体の8.5%
  • 若者:4割が貯蓄ゼロ、半数が学費ローン、平均負債337万円

子どもが学校に行けなくなり、若者が自分で命を絶ち、家族内ですら何も継承しなくなり、人が一人で死に、子どもが生まれず、若者が借金で社会に出て、国が借金を積み上げ続けている。

これがどういう状態なのか、なぜこうなったのか。次の章で視野を世界に広げます。

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