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CHAPTER 03

世界も同じ景色先進国共通の症状

視野を世界に広げてみます。日本だけが特殊なのか、見ていきましょう。

出生率の崩壊は、世界現象

日本の合計特殊出生率1.15、東京0.96。確かに低いですが、世界を見渡すと、日本だけの話ではないことが分かります。

OECD加盟38カ国の平均合計特殊出生率:3.3(1960年) → 1.5(2022年)。

OECD38カ国のうち、人口維持水準(2.1)を下回っているのは37カ国(唯一、上回っているのはイスラエルの2.9のみ)。

世界全体で見ると、世界人口の71%が、人口維持水準を下回る国に住んでいる。

OECD加盟国の平均合計特殊出生率。1960年3.3から2022年1.5へ
主要国の合計特殊出生率。9カ国すべてが人口維持水準2.1を下回る

私の仮説は、「少子化は日本特有の問題ではなく、ある段階まで都市化・経済発展した社会で構造的に起きる現象」ではないか、というもの。

そしてもう一つ気づくのは、出生率が低い場所ほど、都市化率が高いという傾向。

主要都市の合計特殊出生率。ソウル0.55、東京0.96など

世界の主要都市ほど、子どもが生まれていません。

孤独と社会的孤立も、世界規模で広がっている

2009年から2024年の16年間で、社会的に孤立している人の世界的な有病率は13.4%増加(19.2%→21.8%)。しかも、増加分のすべてが2019年以降に集中しています(コロナ禍を含む直近5年)。つまり、世界中で人間関係が薄まり、それがここ数年で急加速している。

WHO(世界保健機関)は2023年、「孤独と社会的孤立は健康への差し迫った脅威」として正式に警告。イギリスは2018年、世界で初めて「孤独担当大臣」を設置。米国の公衆衛生局長官は2023年、「孤独の蔓延」を公衆衛生上の危機として宣言しました。

社会的孤立の世界的有病率。2009年19.2%から2024年21.8%へ

若者のメンタルヘルスも世界的に悪化

15〜29歳の世界的な死因の第3位が自殺。

ジョナサン・ハイト(ニューヨーク大学)が2024年に出した『The Anxious Generation』という本では、スマートフォンとSNSの普及(2010年代前半)と、ティーン世代のメンタルヘルス指標の悪化が、世界的に同時並行で起きていることが、大量のデータと共に示されています。

米国ティーンのうつ病率とスマホ普及率が並行して上昇

ハイトの議論には、相関と因果を混同しているという反論もあります(2010年代の経済停滞や睡眠時間の減少が真因ではないか、など)。実際、何が決定的な原因なのかは、まだ学界でも決着がついていません。

ただ、世界中の先進国で同じ時期に同じ方向の悪化が観測されている、というデータ自体は揺らがない。原因の特定は専門家に任せるとして、ここでは「先進国で同時並行で起きている現象だ」という事実だけを確認しておきます。

労働生産性と経済停滞も、先進国共通の悩み

主要先進国(G7)の労働生産性は、ここ20年でほぼ全ての国が伸び悩んでいる。米国は例外的に高いが、これはGAFAなど一部のテック企業が生産性を引き上げているため。欧州各国も、2008年のリーマンショック以降、生産性の伸びが停滞している。

日本の生産性が低いのは事実ですが、「先進国全体で、経済成長エンジンが弱くなっている」という大きな流れの中での話だと捉えた方が、現実に近いかもしれません。

借金の問題も、米国は財政赤字が止まらず、欧州も債務が膨らみ続けている。日本の対GDP比248.7%は確かに突出していますが、主要先進国全体が「借金で成長を維持する」モードに入っている、というのが実態です。

時間当たり労働生産性の推移(2000年=100)。米国138、日本121

つまり、何が見えてくるか

「都市化が進み、経済発展した社会では、共通して以下の現象が起きている」

  • 出生率が人口維持水準を割る
  • 単身世帯が増え、社会的孤立が広がる
  • 若者のメンタルヘルスが悪化する
  • 労働生産性の伸びが鈍化する
  • 国の財政が借金で支えられるようになる

日本はこの中で「最も進んだケース」の一つです。でも、韓国、シンガポール、香港、欧州諸国も、ほぼ同じ道をたどっている。中国もここに加わってきました。

私の今の仮説は、「現代の都市化された生活様式そのものが、人間の再生産機能・つながり・精神の健康・経済成長エンジンを、構造的に弱めている」というもの。

裏を返せば、これらは個別に対処すべき問題ではなく、「都市生活様式」というOSそのものが何らかのバグを抱えているのかもしれない、ということでもあります。

「便利」と引き換えに、何を失ってきたのか

20世紀後半から21世紀にかけて、人類は確実に「便利」になりました。

  • 食料は、スーパーやコンビニやアプリで簡単に手に入る
  • 移動は、車、新幹線、飛行機、配車アプリで効率化された
  • 情報は、スマホ一台で世界中とつながれる
  • 医療は、抗生物質や予防接種で寿命が大幅に延びた
  • 娯楽は、無限の動画とゲームが手のひらの中にある

これは間違いなく進歩です。しかし、ここで気になるのは、「便利になればなるほど、人が幸せになっているか」というシンプルな問いです。

国連の「世界幸福度報告」では、北欧諸国(フィンランド、デンマーク、スウェーデン)が常に上位。一方で、所得が高い国(米国、シンガポール、香港)が必ずしも幸福度上位に入るわけではない。日本は、所得水準のわりに幸福度ランキングで低い位置にいる(50位前後)。

つまり、「経済的に豊かになることと、人間が幸せになることは、ある段階を超えると比例しなくなる」ということが、各国のデータから見えてきます。

これは経済学者のリチャード・イースタリンが1974年に提唱した「イースタリンのパラドックス」と呼ばれる現象で、長く議論されているテーマです。

便利になり、所得が増えたのに、幸福度は頭打ちになる。あるいは、逆に下がる。

この現象が、先進国全体で同時並行的に起きている、というのが、ここまでの数字を眺めて私が感じていることです。

一人当たりGDPと幸福度スコアの散布図

日本は「先頭バッター」かもしれない

世界全体を見渡すと、日本は「特異なダメな国」ではなくて、「先進国共通の症状の、最も進行した患者」なのかもしれない、という見方ができます。

人口減少、少子化、高齢化、孤立、経済停滞、財政赤字──これらの先頭を、日本が走っています。

そう考えると、がむしゃらに色んな新しいことを試すべき面白い役割にいるような気もします。

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